ペーパーハウス/霊少女
「ペーパーハウス/霊少女(PAPERHOUSE)」(1988 英 バーナード・ローズ監督)
霊少女という副題は完全な誤りで、思春期の不安定な心理を描いたなかなかの秀作。アボリアッツ映画祭でなんかの賞を獲っているが、今では稀少ビデオ扱いになっている。幼年期から思春期にかけての心理は永遠のブラックボックスである。未成熟な仄暗い妄念が生み出す恐怖は無数に存在するし、同時にわれわれを魅了してやまない。スケッチブックに描かれた、草原にそびえる歪んだ家。そこは夢と現実がシンクロする「どこにもない」時空であり、魂のエアポケットに迷い込んだ主人公の心象風景であった。それは時に絵画そのもののように静謐で美しく、また現実のアンナの不安を反映して狂暴な振る舞いもみせる。陳列された妖しげな道具類、アイスクリーム製造器、警告する巨大ラジオ、いびつな自転車……アンナの稚拙な空想が生み出したこの幻想風景がとにかく魅力的。物語の展開としてはいささか定型的かもしれないが、ラストの清々しいリリシズム、お約束の空撮とハンス・ジマーの音楽もいいし、エンドロールの最後に描かれる「Paperhouse」のロゴがやたら感動的である。思春期ホラーと言うよりは、思春期の心の成長を捉えた幻想的な逸品と呼ぶべきだろう。★★1/2