エゴン・シーレ/愛欲と陶酔の日々
「エゴン・シーレ/愛欲と陶酔の日々(EGON SCHIELE)」(1980 墺・西独 ヘルベルト・フェーゼリー監督)
エゴン・シーレといえば腐爛死体のような気持ちの悪いハダカばかり描いたので有名な変態ですが、エロスとタナトスがどうのというよりも、純粋に自己の変態性をさらけ出した稀有な表現者と言うべきだろう。師匠のグスタフ・クリムトも似たような変態だったと思う。変態というのは要するに反社会的リビドーを抑制できない精神的カタワなのであって、だからこそ公衆の面前で「マルテの手記」の一節をいきなり暗誦したりできるのである。非常にうらやましいですね。さて、肝心のエロ描写ですが、ロマーヌ・ボーランジェの裸以外に見どころのない鬱映画「ヴィゴ」とかもそうだったが、これまたきもちわるいだけでさっぱりエロくないという最悪のパターンである。「少女誘拐・変態・妄想的など、愛と性に生きた孤高の画家エゴン・シーレを描いた官能のドラマ」という惹句は看板に偽りありと言わざるを得ない。そんな元気のいいものではなく、本人は内にひきこもるタイプの閉鎖的な変態なので、いきおい受動的で暗澹たる運命に翻弄されてしまう。運命を呪いながら失意のうちに伝染病で死んでいくのだが、観ているこっちまで感染しそうな鬱電波が出ています。早死にした絵描きの一生なんてどうでもいいからとにかくエロを見せろ、という観客の欲求に配慮した映画作りをしてほしいものである。ξ