妄想代理人
「妄想代理人」(2004 日 今敏監督)
「すごいぞ!おまわりさんがどくでんぱをやっつけた!」
このタイトルにカチンときて(妄想を他人に任せるとはけしからん)思わず1巻だけ借りてしまい、よくは知らないが過剰な現実模倣とか観念遊戯をやりすぎておかしくなった最近のアニメを鼻で笑ってやるつもりだったのだが、そこそこおもしろかったので結局全6巻通して観た。都市伝説や神経症など現代的なキーワードを散りばめつつ不安や不快感を煽る手際が鮮やかで、見せ方も凝っている。食い違う現実と妄想の折り合いをつけるのに四苦八苦している現代人にとっては下痢しそうなリアリティでもって迫ってくるかもしれません。「月ちゃんは悪くないよ。ボクが守ってあげる」というマロミの言葉が曲者ですね。病むことが同時に癒しでもあるという今日的なパラドクスを端的に表現しています。麻薬のようなオープニングのタイトルバックでキノコ雲を背景に笑っている登場人物たちの姿、そしてラストでは赤ん坊のように眠っている登場人物たちを描くというところにも監督の確かな悪意を感じます。あと、たぶん監督が途中で飽きたのだと思うが、たまにコメディっぽくなるときがあり、そういう本筋とは関係ないところに却ってイヤガラセテクの冴えが見受けられ、今敏(なんて読むんだこれ)が異常に器用な人だというのがよくわかる。フィクションとしてのアイデアと物語の構造は驚くほど古典的で総じてたわいなく、また所詮他人の妄想でしかないという限界はありますが、普段いっぱいいっぱいでキレかかっている子供や大人のみなさんはこれを観て少年バットの召還方法などを研究されるとよいかもしれませんね。★1/2