食わずに死ね
【テレ東3年ぶり「大食い選手権」復活】笑った。いろいろとツッコミどころの多い記事だが、とりあえずつっこんでおくと、
テレビ東京が3年ぶりに人気番組「大食い選手権」を復活することが25日、明らかになった。菅谷定彦社長(66)が発表した。同番組は02年4月、愛知の男子中学生が「テレビ番組をまねた」パンの早食い競争を行い、死亡した事故を受けて放送を自粛していた。菅谷社長は「視聴者から復活を望む声が多い。安全な形で視聴者にけんたんぶりを見てもらうことは悪いことではないと判断した。大食いと早食いは違うことを明確にし、時間をかけ、スピードを競わない方法を検討している」と語った。
(日刊スポーツ) - 2月26日9時31分更新
『視聴者から復活を望む声が多い』
てことはアレか。どこかの暇で暇で仕方のない人たちが、「食い物を高速で飲み込んだりするデブとかをもっと見せろ」と投書なり電話なりで3年もの間しつこく要望を続けていたわけだ。一種のフリークというかゲテモノ好きの人でないと観ないと思うのだが、そうすると世の中にはデブフェチやゲテモノマニアが予想以上にたくさん存在しているらしい。デブが食い殺し合うデスマッチならまだしも、消化酵素分泌異常の半病人や胃拡張の不気味なデブが食物を飲み込んでいる画を見てナニが楽しいのだろうかと思うが、まあ人の好みはさまざまなので余計なお世話ですかね。
『時間をかけ、スピードを競わない方法』
ということは24時間耐久大食い選手権とかか。もはや何を競うのかわからないが、ヘタすると死人が出るんじゃなかろうか。もしくはなんだろう、早食いの不可能なものとか。ゴマを一粒ずつ箸で拾って食った量を競うとか。もはや大食いではないような気もするが。あるいは、誰も食いたがらないものとか。アレか。うんこか。それなら見たいぞ。ってそれ食い物じゃないだろう、というかその前に放送できないだろう。←こういう発想しかできなくなっている俺かっこいい。
前置きが長くなったが、要するにナニが言いたいのかと言うと、日本のテレビ番組は低俗だと言いたいのである。大食い大会なるものはその最たるもので、日本の卑しい見世物的食文化(あんなものを文化と呼びたくもないが)の末期状態がここにみられるのだ。
事実、テレビをつけて適当にチャンネルを変えると、タレントと称するガサツな連中が常になにかしらモグモグ食っている。よく言われるようにネタに困ればグルメ番組をでっちあげるという安易な企画が蔓延しているわけだが、一昔前までは考えられなかったアイドルが飯を食う姿も平気でテレビ画面に晒されるようになったし、しかも食いながらアレがうまいコレがうまいだの唾液を飛ばしつつしゃべりまくる。料理メインの番組ですら、調理人やタレント連中が調理手順や食に関する雑学をペラペラとまくしたて、できあがった唾液入りの料理をうまいうまいとこぞって平らげる。世も末である。
なぜこんな嘆かわしい状況になったのかというと、その原因の一つは現代日本の食に関する矛盾した教育方針にあると思う。まともな家庭に育った人なら「食事中にみだりにしゃべってはいけない」と子供の頃に聞かされたと思うが、一方で「食事中は他人と楽しくおしゃべりをしないといけない」という矛盾した観念もさりげなく刷り込まれているのにお気づきだろうか。一つめの主張についてはわからなくもない。というかむしろ当然と言うべきで、食っているのだからしゃべることは物理的に不可能である。それに食うときは食うことに専念した方が消化にもいいし、一心不乱に食うのが料理を作ってくれた人に対する礼儀というものだ。しかし2つ目については根拠が不明である。食いながらしゃべりつつ、しかもそれが楽しくないといけないのはなぜか。早いうちから協調性のない人間をみつけだして排除しようという全体主義的教育観の臭いがすると言っては勘ぐりすぎだろうか。いずれにせよ、両立不可能な行為を無理やり同時に行なうとどちらも中途半端になるのは自明の理。それ以前にあんなケロケロぺたぺたときもちのわるい音をたてる連中を俺は到底好きになれませんね。唾が飛び散って汚らしいし、ナニを言っているかもわからない。俺が食事中に手話を使うのはこういうわけである。
そもそも人間がなにかを食っている姿というのは実に醜い。控えめに言ってもきもちがわるい。自分とか家族とか親しい他人の食事行為が辛うじて許せるぐらいのもので、赤の他人の食事風景ほどきもちのわるいものはない。重苦しく沈滞する食事中の空気を音楽や愉快な会話で必死で隠しているのはなぜか。ヤコペッティがビール牛やフォアグラ製造工場をおちょくり、ブニュエルがダイニングトイレで食事をする人々を嘲笑し、モンティ・パイソンが高級レストランでリバースするデブの最期を執拗に活写したのはなぜか。その理由は明白、食文化と食事行為のきもちわるさを知っているからである。このような本来きもちわるい光景を恥ずかしげもなく公共の場に晒し、あまつさえ好ましい行為であるかのごとく煽るテレビ業界の醜態はまさに病気としか言いようがない。
こんなことを言うと、それってあんたが病気なだけじゃないの?と嬉しそうに指摘するやつが必ずいるのだが、そう思うならピンマイクでもつけておのれの食事音を拡声してみればいい。いかに気持ちの悪い音が出ているかがわかる。
「むっちゃはっちゃくっちゃもっちゃ、くちゃくちゃくちゃくちゃ、にっちゃくっちゃもっちゃぬっちゃ、ぐちゃっ、みちゃっ、ぴちゃっ、ごきゅっにゅるっ」
これが舌鼓の音の正体である。