Grand-Guignol K.K.K

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長距離走者の孤独

寒いです。毎日寒くてたまりません。じっとしているだけで全身に震えが走ります。誇張ではなく、本当に凍え死にそうです。
なぜなら、わが家には暖房器具というものが一切ないのです。貧乏だからではありません。買おうと思えば余裕で買えるのですが、買うつもりはありません。私が暖房器具を買わないのにはそれなりの理由があります。
聞くところによりますと、なんですか、貧乏とはとても寒いものだそうですね。この飽食のご時世、空腹はなんとかしのげても、ボロ屋に吹き込むスキマ風の冷たさだけはいかんともしがたいそうです。このつらさは経験したものでないと解らない、ととある貧乏な方が嘆いてらっしゃいました。私はこの言葉に心を打たれました。そうです、貧乏すら体験したことのない者が、平等だの平和だのボランティアだのとおこがましいにもほどがあります。そこで、貧しい皆さんの気持ちを少しでも理解するために、擬似的に貧乏な環境を実現しようと思いました。部屋のあちこちにわざと隙間を作り、暖房のたぐいはいっさい排除、新聞紙にくるまってひたすら寒さを耐え忍ぶ。擬似貧乏(パーチャル・ポバティ)とでも言いましょうか、もちろん馬鹿にしているわけではなく、むしろその逆です。そもそも、貧しい人に対する世間の態度はとても偽善的でいやらしいと思います。膨らんだポケットからはした金をつかんで募金箱に入れ、善行を積んだなどといい気になっていますが、うわっつらの慈善金で一時的に貧しいひとびとを救えても、彼らの心まで暖めることはできないのです。えらそうなこと言ってすみません。でも、所詮われわれには自分が貧乏でないことを再確認し、優越感にひたるのが関の山なのです。どうせ善人ぶるならば、わが身を削って善人ぶった方がはるかにマシだと思うのです。
私がいまだにクールビズを貫いているのも同じ理由によります。真冬でも半そで半ズボン、外出時はカーディガンを一枚羽織るだけです。やってみるとわかりますが、これはマジで寒いです。たぶんそのへんの貧乏な人よりももっと寒いと思います。私には寒風をさえぎるボロきれやダンボール箱さえないのです。実を言いますと、本当は誰かがつっこんだ時点でこんな馬鹿なことはやめようと思っていたのですが、どういうわけか今にいたるまで誰一人としてつっこんでくれません。これではまるでつっこみ待ちのつまらない芸人みたいです。二重の意味で寒いです。
しかし、いまさら引くに引けません。相手がその気なら、こちらにも考えがあります。いやでもつっこまざるを得なくしてやろうではありませんか。そんなわけで、先日とある作戦を決行しました。毎日一枚ずつ衣服を脱いでいくのです。今日はシャツ、明日は靴下、次はズボン、といった感じで、野球拳のように身に付けているものをだんだん減らしていくわけです。これならば、周囲もさすがに見過ごすわけにはいかなくなるでしょう。まあ今まで知らんぷりをしてきた手前、あからさまに指摘はしないでしょうが、せめてこんな軽口ぐらいは言ってくれるかもしれません。
「おやビッチ君、真冬にクールビズかね?」
「やや、これは。うっかりしてました!」
「わははははは」
「あははははあ」
これで私も晴れてウォームビズの仲間入りです。

・・・なんということでしょう。誰もつっこんでくれませんでした。パンツ一枚だというのに!
どうやら私は完全に放置されているようです。みんな見て見ぬふりをしているのでしょうか。それとも陰で私を笑っているのでしょうか。そもそも相手にすらされていないのかもしれません。
明日は全裸で出勤する予定です。