悲しいほどお天気
家の前の路上に黒猫の死骸が落ちている。気持ち悪いからどけようとして、ギョッとなった。それは黒猫の死骸ではなく、死んだ猫の体に黒蟻がびっしりたかっていたのだ。みているうちに黒蟻の群れは退却しはじめ、食いあらされた猫のすさまじい形相がむきだしになった。吐きそうになってテレビをつけると、どのチャンネルにしても藤田まことが出ている。番組表をみると、各局こぞって藤田まこと二十四時間スペシャル、CMもニュースも天気予報も藤田まことがこなしている。テレビ専門雑誌によると、あしたも、あさってもずっとこれが続くらしかった。アタマがおかしくなりそうだった。もうそろそろ気が狂ってもよさそうなのに、なんで狂わないんだろう。なんでですかね、と道ゆく人にたずねてまわるが誰も答えてくれない。おれは走りだした。なぜだ。なぜおれは狂わないんだ。めちゃくちゃに走った。走っているうちに暑くなってきて、シャツをぬいだ。ズボンもぬいだ。ええい、きゅうくつなパンツめ、ぬいでしまえ。それからなおも走った。目の前には、ひきもきらない車両の列。急に悲しくなってきて、おれは涙をながした。腕をふりまわして泣き叫んだ。そしておれは、力のかぎり叫びながら、人波でごったがえす大通りにいきおいよく躍りでた。