クン・パオ!燃えよ鉄拳
「クン・パオ!燃えよ鉄拳(KUNG POW: ENTER THE FIST)」(2002 米 スティーヴ・オーデカーク監督・主演)82分
「片腕ドラゴン」で知られるジミー・ウォング監督のクンフー映画「ドラゴン修行房(Tiger & Crane Fist)」(1976 香)をデジタル合成と勝手な吹き替えをつけていじくり倒したパロディ映画。笑い死ぬかと思った。いかにくだらないシーンを連続させるかという実験的精神に基づき、周到に手をぬいた緻密な構成と限界までIQを落とした台詞の応酬は見事と言うべき。とりわけまぬけなアテレコによる脇役の改変ぶりが凄まじく、鉄の爪を操るクンフーの達人で悪の親玉ベティ(オカマ)、ウィーウィーと発作のようにオカマ声をあげるモミアゲ美女リン、幼児靴をはいたバカ丸出しの弱虫ロー(オカマ)、犬のドッグ、などなどサブキャラがいちいち猛烈におかしい。主役のスティーヴ・オーデカークも、ニック・ノルティをもっと間抜けにしたようないい顔している。連続危篤シーンでは窒息するぐらい笑った。別にいばるつもりはないが、私はふだんコメディやお笑い番組をみてもクスリともしない暗い人間である。感心することはあっても本当に笑えるものは意外に少なくて、手放しで笑うためにはノンセンスの極みに達していないといけない。だからこういう映画は貴重なのである。他の人がみておもしろいかどうかは知らない。ただ、同様の手法で作られた「シルベスター・スタローンのレインボー」が下品なだけでまったくおもしろくなかったのを思えば、こういう一見ふざけたパロディ映画というのは真面目な遊びの精神と高度なセンスがないと実現できないのだなあと思った。あらかじめアルコールで頭をダメにしておき、夜中にひとりで観るのが笑い死ぬコツかも。★★
(追記)
というわけでDVDを買った。995円(安っ)。やたら豊富な特典がいちいちどうでもいいが、改変前の音声、英語字幕が収録されているのが嬉しい。日本語字幕のセンスもいい。ちなみに日本語吹き替え版はぜんっぜんおもしろくないので観てはいけません。