くそったれ!少年時代
「わたし、リラ・ジェインよ」
「ヘンリーだ」
彼女はわたしのことをじっと見続け、わたしも芝生の上に座ったまま見返した。やがて彼女が言った。「わたしのパンティを見たい?」
「もちろんさ」と答える。
彼女はワンピースをたくし上げた。ピンクの清潔なパンティを穿いている。素敵だった。彼女は服をたくし上げたまま後ろを向いたので、そのお尻も見ることができた。素敵なお尻だった。それからワンピースを下ろした。「さよなら」と言って歩き去っていく。
「さよなら」とわたしも言った。
『くそったれ!少年時代(Ham on Rye)』(1982 米 チャールズ ブコウスキー著)
途中で何度か投げ出しながら、4ヶ月かかってどうにか読了。424ページ。長い。長いが、断片的なエピソードをつなぎあわせたような形式なので、辛うじて読み飛ばせた。なんでこれを買ったのか忘れたが、どっかのブログでダメ人間と紹介されてたのに影響されたような気がする。で、ブコウスキーが主人公ヘンリー・チナスキーに託して自身の最低の少年時代を描いた自伝的小説。たしかに最低である。登場するのはチナスキーも含めてどうしようもない連中ばかり。チナスキー一家は絶えず何かを罵りあっているし、そのページからは膿汁が吹き出ていたり、暴力や下品な言葉が下痢便のように飛び散っていたりする。あらかじめ不可能であることを刻印され、八方塞がりの未来に置かれた自分自身と、そうならざるを得なかった者の最低ぶりをブコウスキーは真摯に、論理的に、悲しみとも憤りとも諦念ともつかない淡々とした語り口で綴る。だがその最低ぶりに共感できるかというとそうでもなくて、チナスキーはとても不愉快なやつなので、世界に対する膨大な嫌悪をもてあまし、またしても暴言を繰り返しては嫌がられる。パンクな青春!と帯に紹介されているが、わたしはパンクの意味がよくわからない。しかし、パンクはヘタレと同義である、とわけもなく思う。たわごとを言い続けるように宿命づけられた呪いのようなものだ。痛々しく救いようのない魂。もちろんけっして報われることはない。破滅的なようでちゃんと郵便局にも勤めて、ブツブツ言いながらそれなりに長生きしたブコウスキーはその意味でホンモノのパンクなのだ、という気がする。★