アメリカン・ナイトメア
映画は「お化け屋敷」と同じで、イメージとしての実体はあるが、現実と虚構の狭間に位置している。幽霊と同じだ。死んだ人たちの姿さ。・・・動かない写真とは違って、映画は生きている瞬間をとらえる。つまり我々は不死を得たつもりで幽霊を生んでしまった。
「アメリカン・ナイトメア(THE AMERICAN NIGHTMARE)」(2000 米・英 アダム・サイモン監督)73分
「ザッツ・ショック(TERROR IN THE AISLES)」「キラードローム/惨殺症候群(DON'T SCREAM, IT'S ONLY A MOVIE!)」のようなホラー映画名場面集というよりも、監督たちへのインタビューの合間に重要なシーンと実写映像を挿んでその社会的な意味あいを浮かび上がらせようというドキュメンタリー。トビー・フーパー(普通のおっさん)ジョージ・A・ロメロ(普通のでかい人)ウェス・クレイヴン(普通の詐欺師)ジョン・カーペンター(普通の大工さん)トム・サヴィーニ(どう見てもヤバすぎ)ジョン・ランディス(どう見ても場違い)デヴィッド・クローネンバーグ(どう見ても変態)、などすっかりダメになったホラー映画界の重鎮たちへのインタビュー集がやはり興味ぶかい。
「好景気の時は上り調子で、好きなものは何でも手に入る。しかし家庭生活というのは評判ほどのものではなかった。物を持っていても意味がないし、偽りの幸せだという思いがつきまとう。物があるだけで、あとは深く考えないからだ」(ジョージ・A・ロメロ)
「想像もできないことを想像することで、少しはそれをコントロールできる。考えてもみなければ何も対処できない。・・・私自身基本的には革命は怖い。できれば経験したくない。しかしその一方で物事の変化には革命が必要だと認めている。寄生虫はその一つの比喩的な概念だ。ソ連共産主義やイスラム社会主義のようなもの。社会に根を張り人々に次々と感染する。哲学を広めるための一種のモデル。宗教や政治哲学ともいえる。それは口移しで伝えられる」(デビッド・クローネンバーグ)
「ある意味いい時代だった。なぜなら人々は50年代の価値観を拒否し、新たな理想を求めた。そして我々の世代の人間は金儲けしか頭にない。堕落だよ」(ジョン・カーペンター)
「アメリカ人の夢というと、ディズニー映画で見るような、きれいな芝生のある家を連想する。両親と幸せな子供たち。神を信じ、誰もが善意に満ちている。それが期待の理想像だ。でもその裏側には、それが真実でないと知った時の怒りと失望がある。それがアメリカのホラー映画に一層の激しさを与えていると思う」(トビー・フーパー)
60年代のベトナム戦争や核戦争の死の影、幸福という虚像の崩壊をまのあたりにしたこれらの申し子たちが生み出した反社会的で倒錯的な作品のなかでも、やはり「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」「悪魔のいけにえ」が際立っている。現実とオーバーラップするテーマの重さと同時にその描写のえぐさが優れた娯楽でもあるという両義性をはらんだ、至って真面目な作品であることがよくわかる。特に「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」は、全体の退屈さに埋もれがちだが仔細にみればその重さと革新性は明白である。実録映像を模したモノクロ静止画像によるエンディングはいま見ても衝撃的なのである。無責任なことを言うようだが、私は映画産業の発展などに興味がないどころかくそくらえと思っていて、近年の生ぬるいエンタメホラーにもうんざりなのでこのジャンルが衰退しようがどうでもいいのではあるが、ホラー映画を舐めている(または目を背けている)人たちは、いまいちどそれを観ることの意味を考えてみればよろしいのでは。★1/2