黒い文学館
『黒い文学館』(生田耕作著 中公文庫)
『さか○ま』『な○くず○の○』を買った変態はこれも買いました、とAmazonが嬉しそうに報告してくるので、あまりのしつこさに根負けして購入した。生田耕作さんはフランス語の専門家で、主に翻訳を通じてシュールレアリズムやヨーロッパの異端芸術をコツコツ日本に紹介しつづけた人だそうである。閑寂を愛する物静かなビブリオヲタクでありつつ、自らの貴族趣味を貫くためには一転して戦闘的論客にも変貌する筆者が、偏愛する異端芸術の紹介を通じてわたくしは変態でございます、という真摯な告白をしたためた書とも言えるだろう(余談だが筆者の「わたくし」という一人称が個人的に超ウケたので、わたくしもこれからわたくしのことをわたくしと呼ばせていただく)。で、わたくしはこの分野の知識にまるで乏しいのでなかなか興味をそそられたわけですが、一歩まちがえれば鼻持ちならない気取り屋趣味ともなろうところが、生田氏は嘘をつけない誠実な人柄のようで、とりわけ少女陵辱を畢生のテーマとしたマンディアルグの紹介文には尋常ならぬ熱意とこぼれんばかりの歓喜がみなぎっていて可愛らしく、わたくしも釣られて『狼の太陽』という本を注文してしまいました。かたや、「斎藤さんがぼくに対する批判文の中で引用している「四畳半襖の下張」事件での五木ブリ之の発言、あれは一体なんですか。頭の悪さの見本ですよ。何べん読んでもぼくにはさっぱり意味がつかめない。それをありがたがって長々と引用している斉藤さんの頭脳を疑います」みたいな一見辛辣な発言にも真摯さが感じられ、カワイイとすら思わせる、このへんがネット掲示板の周辺をブンブン飛び回っている自意識過剰の銀バエとの大きな違いかもしれませんね。以上、やっぱりフランスってド変態の宝庫だなあと改めて感じ入った次第です。雑文集という構成なので重複や無駄も多い本ですが(特に末尾のメモのような日記もどきは不要)、内容はわりと平易で異端芸術へのイントロダクションとして一読の価値はあると思われます。★1/2