ゴーグル
大きな津波が来る。好きなものはぜんぶ助ける。嫌いなものはぜんぶ流れればいい。
「ゴーグル」(2005 日 桜井剛監督)60分
「文部科学省教育映画選定」の文字で身構えてしまうが、そんなことは関係なしに良い映画でした。ストーリーに見合った尺なのも好ましい。児童虐待・いじめ・犯罪による暴力の被害者というあまりにも今日的なテーマはともすれば表層的に堕しかねないが、本作は浅薄なセンセーショナリズムや安易な癒し・感傷とは無縁。傷ついた魂が寄り添うことで再生し、現実に立ち向かう術を知るというシンプルな可能性が示されるだけだ。それが決して押し付けがましいメッセージになっていないのは、観た人が何かを感じればいいという程度の祈りに近い思いが託されているからだろう(このあたり「どこまでもいこう」「非・バランス」「blue」などの優れた青春?映画と通底するものがある)。確かに感情を殺して寄り添う少年と少女の姿は痛ましい。無力感と嫌悪感のなかで少年が願う「津波」の到来は、同じ重量の心の危機をあらわしている。八方塞がりの最悪の状況だからこそ探らざるを得ない可能性はいともたやすく踏みにじられる、しかしその一方で案外近くに出口は用意されていたりもするというある意味当然の可能性(ゴーグルの象徴的な使い方に注目)。とはいえもちろん現実はもっと悲惨で、映画のようには救われない魂の方が多いだろう。フィクションだからこそ共感できるというのはなんとも皮肉な話である。★1/2