殺人の追憶
「殺人の追憶(MEMORIES OF MURDER)」(2003 韓 ポン・ジュノ監督)130分
傑作。ラストの美しさに震えた。ブラックコメディからシリアスドラマへの転調をとげつつ、130分もの長丁場を巧みな緩急で描ききった本作は、優れたエンタテインメントであると同時に、その余韻の深さにおいて凡百のドラマとは一線を画している。冒頭とタイトルであらかじめ宣言されている通り、本作は単なる謎解きサスペンスでもなければ、ノスタルジックな懐古映画でもない。映画史にかがやく肩透かしサスペンス「新サスペリア(L'ASSASSINO E ANCORA TRA NOI)」や、能天気な時制ジャンプで完結するノスタルジー映画とは、重さが、殺気が、痛切さが違う。ソン・ガンホの視線の先にあるのは、現在を脅迫しつづけるのっぺらぼうの亡霊であった。物言わぬ遠景の浄らかなまぶしさ。いまだ呪いは解けず、真実は稲穂だけが知っている。★★