呪われたジェシカ
「LET'S SCARE JESSICA TO DEATH」(1971 USA Directed by John D. Hancock)邦題「呪われたジェシカ」Region1 English-Subtitled 89mins.
というわけで幻のカルトホラーがようやく陽の目を見ましたが、これはまぎれもない傑作だと思います。白昼に朦朧と浮かび上がる屋敷の歪んだ佇まいからして渋すぎるのだが、ラヴクラフト的なホラー・ギミックの原型を満載しながらも、詩的情緒をたたえたかっこいい映像と、遠い異世界からエコーするような耳鳴りを伴ったこの神経症的な世界の吸引力はただごとではない。恐怖は無形すなわち実体の不在そのものである以上、説明し解釈されうるものではない。本作はひたすら不安の心象を積み重ねることによって問答無用の狂おしい恐怖を演出する。たとえば屋敷に残された見知らぬ一家の肖像写真が発散する禍々しさというのは何なのか。古い写真の恐ろしさというのはまさに不在の恐ろしさで、写真の中の死んだ人物の視線は、あるいは逸らされていたり瞑目していたり(たとえば「反撥」のラストカット、「アザーズ」の死体写真、「女優霊」のつぶれた目線)、わたくしどもには見えない(もはや存在しない)何ものかを捉えているのである。あの感じ。恐怖の正体はわたくしどもの実存をおびやかし解体する不合理の塊でなければならないのだ。迫りくる死の足音、肩口に虚無のほころび。崩壊したのは《私》なのか世界なのか。すべては解き明かされぬまま、彼岸と此岸の境界を漂うボートが物悲しくフレームアウト。そして最後に死/詩だけが残る。★★