地下鉄のザジ
「地下鉄のザジ(ZAZIE DANS LE METRO)」(1960 仏 ルイ・マル監督/レイモン・クノー原作)
これもついつい買ってしまいました。「地下室のザジ」にあらず。フレンチ・ロリータなどでは断じてないクソガキ映画の異色作。「プリティ・ベビー」みたいな凡作で喜んでいる人にはあえてこの映画を推したいですね。ついでに「ブラック・ムーン」の良さがわからない人にもあえてアホかと言いたいです。でまあ、お世辞にも面白い映画とは言えない。むしろコメディ映画としては純粋に失敗作、はっきり言って笑えないドタバタである。平板なスラップスティックが延々とつづく後半は膨大な退屈以外のなにものでもない。赤の他人の狂騒は当人が想像する以上に寒々しいものだということを思い知らされる作品でもある。だが、パリにうごめく群集の悪夢のような光景と、脈絡なく登場するシロクマ、ザジの小生意気なクソガキぶりがなぜか余韻を引く。初めと終わりの電車から見た光景に胸が締め付けられる。これだけでもザジ・ダン・ル・メトロはアンチ・ロリータイズムの香気に包まれた変な作品として、わだくしのなかで名状しがたい魅力を放っているのである。