閉ざされた城の中で語る英吉利人
『閉ざされた城の中で語る英吉利人(L'Anglais d´ecrit dans le chateau ferm´e )』(1952 仏 ピエール・モリオン著/生田耕作訳)
その二匹を彼はむしり取り、そいつらの体(袋のかたちにつくられた)の中へ両手の親指を押し込んで、手袋みたいに裏返しにし、腸(はらわた)をつまみ出したかとおもうと、その内臓のかたまりでもって、自分のちんぼうと睾丸をこすりたてるのが見えた。・・・最後に、さまざまな叫び声を漏らしながら、生贄の顔を後ろへのけぞらせると、そこに仮面のようにはりついたまま留まっているでっかい蛸にもう一度彼は齧りつき、まるで花火仕立ての太陽の光芒のようにその触手が震え軋る生き物の片方の眼を歯で噛みちぎってしまった。
「ガムユーシュ城は」と、がなり立てるような調子でしゃべりだした。「言うなれば、いつ何時射精するかも知れん、常に勃起しつづけの、太い、でっかいちんぼうみたいなものだ。それを支えている岩石の中に広くうがたれた地下室は睾丸に見立てられるし、そこにはドイツ軍から、次いでイギリス軍から、さらにアメリカ軍から盗み出した爆発物が一杯つまっている。・・・そして私は必ずこいつを実行に移してみせるつもりでいる、勃起したあと精子を吐き出すことが叶わなくなったときは直ちに。性交不能の腹いせにガムユーシュの一斉発射をやるつもりだ!」
黒ん坊たちは、雄も雌も、発作が始まったとたんに部屋から逃げ出してしまっていた
アンドレ・ピエール・ド・マンディアルグが偽名で出版した変態小説。翻訳が二種類(もうひとつは澁澤龍彦訳『城の中のイギリス人』)あるのでどちらにしようかと迷ったが、やはりマンディアルグといえば生田さんの珍訳で読んでみたいと思いこっちを買った。蛸のからみつくジャケットがカワイイ(笑)。海に閉ざされたガムユーシュ城にモンキュという頭のおかしいイギリス人が土人と暮らしていて、貴族の娘を拉致してきては蛸の水槽に落としたり、犬に強姦させたり、母親の前で幼児を捌いて楽しむという、エログロナンセンスという死語がぴったりのえげつない話なのだが、頻発する《ちんぼう》といった愉快な用語をはじめ全編に幼児的なほほえましさが満ちていて不思議と不快感はなかった。むしろ読みながらにぎりしめたちんぼうをとりおとして我知らずニコニコする、といった具合でした。最終的にモンキュはインポテンツへの絶望からガムユーシュ城をコッパ微塵にふっとばすのだが、それを語り手の私がなつかしく思い出すという、なんともメルヘンチックな幕引きもほほえましい。邪気と無邪気が適当に按配されて、かつ適当にみじかいのでオススメ。「エロスは、黒い神だ」★1/2