少女地獄
「少女地獄」(夢野久作著)
「少女地獄」
・何んでも無い ★1/2
彼女の無邪気な、鳩のような態度と、澄んだ、清らかな茶色の瞳と、路傍にタタキ付けられて救いを求めている小鳥のような彼女のイジラシイ態度・・・・・・バスケット一つを提げて職を求めつつ街を彷徨する彼女の健気な、痛々しい運命に、衷心からすいつけられてしまっていた。笑え・・・・・・私等のセンチの安価さを・・・・・・・
・殺人リレー(「ユメノ銀河」の原作) ★
毎日毎日、何の目的も楽しみもないカラッポの世の中を、切れるような風に吹かれたり、ゴミダラケの太陽に焼かれたりして、生命がけで駈けずりまわるようなもんよ。・・・ウント速力を出した時、何かに行き当ってメチャメチャになってくれるといいと、ソンナ事ばっかし考えさせられる商売よ。
・火星の女 ★1/2
県立高女メチャメチャ 森栖校長発狂! 虎間女教諭縊死! 川村書記大金拐帯
そんな風にどこどこまでも浅ましい世間の様子がわかって参りますうちに、私の心のうちに拡がっております虚無の流れが、イヨイヨハッキリ鏡のように澄み渡って来るのでした。
世間の人々が・・・・・・この地球全体までが、大きな虚無のうちに生み付けられておる小さな虫の群れに見えて来ました。そうして、そんな虚無の中で、平気で悪い事をする虫ならば、こちらも平気でヒネリ潰して遣っても構わないような気持になって来ました。
「童貞」★
それは眼の前に重なり合った草の茎の隙間から見るテニスコートの白い一直線の上を、ソロソロと後しざりして来る薄茶色のセイラアパンツであった。
「アッ・・・・・・」
と小さな叫び声をあげてセイラアパンツは駆け出そうとした・・・・・・
とっさの間に言い知れぬ恐怖と絶望に囚われたらしく、目を真白に見開いて、一心に彼を凝視したまま、ハアハアと喘ぎつづけるのであった。
「・・・・・・ア・・・・・・ア・・・・・・アナタハ・・・・・・サッキ・・・・・・ノ・・・・・・」
「けむりを吐かぬ煙突」★
「女坑主」★
「この世の中はソンナ様な神秘めかした嘘言ばっかりでみちみちているんですよ。だから何もかもブチ壊してみたくなるのです。何もない空っぽの真実の世界に返してみたくなるのです」
「アンタ・・・・・・それじゃ虚無主義者ね・・・・・・・この世に興味を喪失してしまった人間の粕みたいな人間が、みんな主義者になるのよ」
【総評】少女は不幸でなければならない――というのがわたくしの信念である。ロベール・ブレッソンの「少女ムシェット」を芸術映画ととらえるキモチノワルイ人たちがいるが、あれは性格のねじくれた少女が不幸のまま死んで行くという点が重要なのであって、ひたすら少女の不幸に萌えまくる究極のロリイタ・コンプレックス映画に他ならない。夢野久作の「少女地獄」三篇はいずれもこの少女幻想のツボを押さえた佳作である。貧困、退屈、醜貌その他の過剰な欠落を背負った不機嫌な少女たちの胸のうちには反動として過剰な欲望がひそかに渦巻いている。それらは性欲や怒りや妄想の得体の知れぬ混合物であるが、そこに少女特有の突拍子のなさ、論理の飛躍が加わることによって自ら運命の死亡装置にスイッチを入れてしまうのである。ソッポを向いたまま説明のつかぬ過剰さに身を焦がす少女たち。まさに少女は少女であるがゆえに死を選択せざるを得ないのである(ロマン・ポランスキーの「反撥」やジョエル・セリアの「小さな悪の華」が同様の構造をもっていることに注目いただきたい)。一方で、いずれも夢野久作独特の文体やタイポグラフィーが手伝ってストーリーを超越した面白さをもった読み物でもあり、陰惨なユーモアと破滅へと向かう少女幻想のカタルシスが同居した作品になっている。