スキャナー・ダークリー
「スキャナー・ダークリー(A SCANNER DARKLY)」(2006 米 リチャード・リンクレイター監督/フィリップ・K・ディック原作『暗闇のスキャナー』)
「その花が生み出すのは未来だよ。君のじゃない。君はもうたっぷり楽しんだろう。この花はもう君の神ではなくなったんだ。」
「俺は死が生えているのを見た。大地に生えてた。青く、大地を覆ってた。友達にプレゼントしよう。感謝祭の日に。」
ヤク中SF作家フィリップ・K・ディック(Dickは英語で"ちんこ"の意味)はわたくしが古書マニアだった頃よく集めた(そしてほとんど読んでいない)作家の一人なので思い入れがある。ただ、ディック原作の映画って正直たいしたのがなくて、原作の方がよほどおもしろいと思うのだが『暗闇のスキャナー』は未読なので観た。例によって管理社会の中で増大するカオスと主人公のニセモノ性が暴かれる過程が描かれるだけでストーリーで見せるわけでもないし、台詞が多くて気が滅入るし、めぼしいのは視覚効果だけになるが「ウェイキング・ライフ」は知っているのでいくつかの幻覚シーンが目を引くぐらいであんまりおもしろくないのだが、ドラッグに侵された作者の精神状態を反映するかのような混沌と"D"から解放された主人公の奇妙に晴れやかな表情が印象的。複雑怪奇な物語の背景と対照的に非常にシンプルな寓話性に還元しうるラストシーンと膨大な死亡リストにこめられた意味合いは深い。★