パフューム ある人殺しの物語
「パフューム ある人殺しの物語(PERFUME: THE STORY OF A MURDERER)」(2006 独・仏・西 トム・ティクヴァ監督/パトリック・ジュースキント原作)147分
「なにが香水だよ。正直に吐きな。あんた変態なんだろ?」
ニオイの魔術師 1ねん1くみ くろさわとしお
(あらすじ)
驚異の嗅覚をもつジャン=バティスト・グルヌイユは少女の体臭を保存することに異常な執念を燃やす。
(かんそう)
トム・ホランドの「ランゴリアーズ」やモーセン・マフマルバフの「サイレンス」など、盲目の主人公による聴覚世界の繊細な描写を追求した作品はこれまでにもありましたが、嗅覚に特化した作品というのは珍しい。本作の主人公は一見ただのボンクラですが、こと嗅覚に限っては異常な鋭敏さを持ち、匂いに対してモノメニャクな執着をみせます。そんななか彼がたどり着いた究極の香りが《少女の体臭》。感覚の異常を通り越して一足飛びに「コレクター」「グレアム・ヤング毒殺日記」的変態世界に足を踏み入れるのでした。こうして終始陰鬱なムードでキャメラは孤独な変態の生態を追い続けていくのだが、なかでも貧しい売り子の少女を追いまわすキャメラの動きはフェティシズムの恍惚に満ちたエロさ。「マリアの受難」のトム・チクヴァ監督だけあって、さすがにド変態の心理を的確に把握しちえいる(笑)。その後もグルヌイユは究極の香りを求めて、つかまえた女を釜ゆでにしたり脂漬けにしたりとトンチンカンな実験を重ねます。当然、謎の少女連続失踪事件で町は大騒ぎになるが、きちがいの情熱はとどまるところを知りません。なおも少女を殺して匂いを採取し続けたあげくついに処刑台にまで登りつめるのでした(笑)。あやしげな香水をふりまくと群集がいっせいに交接を始めるというアントニオーニの「砂丘」ばりの爆笑シーンがありましたが、噂によれば公開時はオドラマ=システムが採用されていたそうです。催淫性の香りを劇場内に放ったところ観客がいっせいに発情、屋外に飛び出て痴漢行為を働きまくったとか。ま、わたくしは香りごときに幻惑されない自信があるけどね。ちくのうだから(笑)。★