酔いどれ詩人になるまえに
「酔いどれ詩人になるまえに(Factotum)」(2005 米・諾 ベント・ハーメル監督/チャールズ・ブコウスキー原作『勝手に生きろ!』)94分
競馬場に来てる連中はこの世の縮図だ。死と敗北に逆らって命を削る。だがどうせ勝ち取れるのは刑の執行猶予だけ。一瞬の現実逃避だ。
詩は街だ。道路や下水道が走り、聖者に英雄に、物乞いに狂人。ありきたりの物事や酒、雨と雷と日照であふれかえってる。言葉は戦時下の街だ。世をすねた酔っぱらいで満員の床屋だ。詩は街だ。詩は国だ。詩は世界だ。
『くそったれ!少年時代』は長いがところどころ面白い小説だった。あれを読む限りヘンリー・チナスキー(ブコウスキーの分身)はごつくてブサイクなのんだくれのイメージがあるが、この映画ではわりとニヒル(死語)なダメオヤジ。ニコリともせずに吐き出されるブコウスキーのひねくれた言葉は真摯であるがゆえにそこはかとないおかしさをはらんでいる。だからなおさら最後の妙に前向きなメッセージに違和感をおぼえた。★