ポエム

フルメタル・ポシェット　１ねん１くみ　新倉イワオ

読みかけの『奴隷の歴史』を
ポケットに仕舞ひこみ
淋しき廃線をたどるおまへ
高木をゆらす風が
乾いた手で頬を撫ぜ
傍らを足早にとほり過ぎる
天高く飛ぶからすの群れが
「あほ」と高らかに輪唱し
笑ひながら弧を描く
道の途上で不意に
看板が警告を発す
《コノサキ　きちがひ　出没注意》
やがておまへは
かつておまへの生まれ育つた
うらぶれし廃墟にたどり着く
床を貫きぐわらんどうに密生する淡竹の群れ
首をかしげた人形の埃まみれの狂った微笑
酸鼻をきわむる光景の隅におまへは
うごめく白い影を見る
《ママン！・・・》
嗚呼、純白のネグリジェーに身を包み
幽鬼のやうに地上を這ひずるは
疾うの昔に息絶ゑたはずのおまへの母
何故と問ふおまへに
ポシェットより取り出された
凶暴なトンカチが答へる
過ぎ行く夏の面影は
貴様の頭蓋に痛恨の一撃を呉れて逃げた