そよ風の誘惑
桜の舞いちる木の下で、きかんしゃトーマスのおもちゃを抱えたおっさんに遭遇。
「♪おもちゃ満足 おもちゃ王国〜」
「ごきげんですね」
「♪おもちゃ大好き おもちゃ王国〜」
「重症だな」
「♪いざーいかんー東条湖へー」
「そんな歌詞ねえよ」
「さっきから変なメロディーがわたくしの頭の中に流れているが気にしないでいただきたい。きっときまぐれな春のそよ風のいたずらです」
「いいえ、きっと光明星2号の電波に操られているのでしょう」
「陰謀だ」男は星ヒューマばりの劇画調フェイスで叫んだ。「これは例のウサンクサイ団体による世界幼稚園化計画の一端に違いない!」
「その確信がどこから生じたのか知る由もないが」とわたくし。「きさまはそれで満足なんだろう?」
「ああ、そうとも」男は『恐怖新聞』の主人公の顔を真似た。「なにしろおもちゃ満足だからな!」
「なにはともあれ」とわたくしはパンツを脱いだ。「リアルな人面きかんしゃのおもちゃでこんなに浮かれ騒ぐおっさんの姿だけは見たくなかった!」
そうこうするうちにぼくたちの夢を乗せた光明星2号が華麗に空中分解。
以上が、なにもかも呪わしくなりわたくしが旅に出た理由です。