哥
- 出版社/メーカー: ジェネオン エンタテインメント
- 発売日: 2003/12/21
- メディア: DVD
- クリック: 55回
- この商品を含むブログ (11件) を見る
「哥」(1972 日 実相寺昭雄監督)120分
時間のはげづら 1ねん1くみ アダ・マウロ
「既にこの世を去った人のことを書いた字なんやから、この字を刻んだ石の中には、絶対が潜んでいます。死という名の絶対。そう思うたら、墓碑銘には格別の味わいがあるんです」
「石の中には何もない。あるのは暗闇だけだな。墓を作れば、いつまでも死者の記憶がこの世に残るというのも馬鹿な考えだ。死人の魂なんか、百年もしたら消えてしまう。一番長持ちして千四百年くらいだが、これは未練たらしくていかん。お釈迦様など死んだ途端にその霊魂も消滅したそうだ」
(あらすじ)
丹波篠山の旧家・森山家のジジイと妾の間に生まれた下男の淳(篠田三郎)は、墓碑の拓本だけが趣味の暗い青年。好きなおやつははったいこ。五時以降の残業はいややと頑なにリコピーの作業を拒絶し、夜な夜な森山家の見回りに余念がない。そこへあばれはっちゃくパパこと森山家のあらくれ次男(東野孝彦(英心))が帰ってきたからさあ大変。伝統をブチコワス森山兄弟と森山家の保存を訴える下男・淳との戦いがいま、始まった。
(かんそう)
形式の保存に異常な執着を見せる淳の行動原理は傍目にも不可解だが、メカケノコという負い目を《家》そのものへの滅私奉公により解消してきたと思われる淳が、規範への過剰な従属という信条に辿りつくのはなんとなく理解できる気もする。《死=絶対》について僧侶と交わす会話のシーンと無の文字を半紙に書き連ねるシーンで漏らす唯一の笑顔が印象的だ。永劫という妄想の中でフル勃起した淳の思考回路は、無常観にもとづく教義と有形財産の保有というあからさまな矛盾を露呈する現代仏教の限界に重なるものがある。だがそんな淳の唯一のよりどころをも無慚に破壊していく容赦ない時代の流れを残酷かつコミカルに描いたのがこの映画。死にかけの淳を山に残して森山家の3匹がビゼーのカルメンの一節(アルカラの竜騎兵)を能天気に歌いながら遠ざかるシーンがなんとも笑える。森山家の石段をゾンビのように這い上がり敢えなく転げ落ちるウルトラマン太郎。その笑える死にざまに重なるヒステリックなビバルディが古き良き日本の断末魔にも似て。石堂さんのおもしろい脚本と冬木透のクラシック選曲、実相寺監督の無駄にアグレッシブな画作りが織り成す日本人必見の一本。
http://d.hatena.ne.jp/bitch69/20051223