俺はダメなやつだ
と自分で言っている人がたまにいる。まあ、人間はどいつもそれなりにダメなので、当たらずとも遠からずといったところだが、ともあれ自分でこういうことを言う人は、他人の気を引こうとしつつ、なおかつ自分のダメさ加減に酔っていると思われる。眉根をよせたり、きこえよがしに自嘲的に言う気障な人も含めて、自分のダメさ加減に酔うことを「ダメ酔い」と一般に呼ぶ。傍からみると非常にうすきみわるい光景だが、なにしろ当人はきもちよく酔っているので邪魔をしてはいけない。あと、同じくダメ酔いの変形で、「このままでは俺はダメになってしまう」という表現もある。これの意味するところは、「もともと俺はそこそこダメだが、このままではもっとダメになってしまうなあ、あはは」といった感じである。先行きに不安を覚えながらも堕落していく自分に興奮を禁じえないといった趣だ。俺はダメじゃない、と片意地を張り続けるとしんどいので、ひらきなおりというか、低次元で自分を解き放つことで、一種の自浄作用が得られるのだろう。たしかに自分で自分をこきおろすのはきもちいい。マゾイスティックな快感がある。嘘だと思うならやってみるといい。「俺はダメだ。ダメなやつだ。なんてダメなんだ。ゴミクズめ、ウンコ、死ねっ、死んでしまえ。えへへ」ほらね、お経みたいで癖になるでしょう。そう、ダメ人間というのは、じつは究極の快楽主義者なんですね。もっとも、本当にダメな人が俺はもうダメだあと言うと説得力がありすぎてシャレにならんのでやめた方がいい。