アマゾン・ドット・虚無
私は古くさい本が好きで、昔からよく集めていました。インターネットなどという便利なものもなかった時代、古本屋をかけずりまわって欲しい本を探したものです。なぜなら私が欲しい本は普通の本屋には売ってなかったからです。学校にも行かず学生時代の大半を古本屋めぐりで費やし、欲しい本を手に入れて満足しました。入手したとたん読むのがめんどくさくなって、大半はいまだに読んでいません。いまはインターネットという便利なものができたので、古本ですら家にいながら購入することができるようになりました。何年か前、インターネットで買い物をするためにクレジットカードをわざわざ作って、さっそく注文してみました。疑りぶかい私は当初、このリンクをクリックしたらわけのわからないアフリカの国につながって大金をとられるのではないかとか、注文したとたん自動的に通報されて警察が踏み込んでくるのではないか、などとびくびくしていたのですが、さいわいそんなこともなく無事に買い物ができたのでホッとしたものです。いままでの苦労はなんだったのでしょう。こうして私はそれまでの鬱憤を晴らすかのように、財力にものを言わせて本やDVDやCDを買いまくりました。そのうちに輸入盤のDVDというものがあることを知り、これもインターネットで買い物できることを知った私は喜びいさんで注文しました。アマゾンのマーケットプレイスというところで初めて輸入盤を注文して二週間後、英語で書かれた私あての小包が届きました。外人たんの毛むくじゃらのオテテがこれを梱包してくれたのかと思うと興奮を禁じえませんでした。さっそくDVDのケースをあけてみると、中はからっぽでした。なにかの冗談だと思い、ケースをひっくり返したり、振ったり、またひっくり返したりしてから初めて気づきました。「騙された!」怒り狂いながら私は電子メールを送りました。頭に血が上っていたのでこんな感じだったと思います。「注文したの箱、あけたら空っぽ、ディスクはどうですか?」するとすぐに「ごめんごめん、もう一回ただで送りなおすから」という返答がありました。あとで調べてみると、個人輸入にトラブルはつきものなんですよね。ディスクがストッパーからはずれて裏面が傷だらけ、というのもよく聞きますが、輸入盤特有のシールがカバーにひっついて剥がれたり、プラケースだと思っていたのにじつは紙ケースで冬になると思いっきり反り返ったり、字幕入りと書いてあったのに入ってなかったり、などなど値段とひきかえにリスクが伴います。まちがってどっかの外人の注文品が届いたときもありました。どっかの外人の注文品が届いてるよ、とメールを送ると「ごめんごめん、それあげるから図書館にでも寄付しといて」という返答がきました。わけのわからない外人バンドのCDだったので未開封のままいまも放置したままです。それらはどうでもいい思い出として胸の片隅にそっとしまってあります。