「紅い花」(つげ義春著)
解説によるとある時期を境につげ義春は初期のO・ヘンリー風人情話をきっぱり捨てたそうである。本書の収録作で言うと「古本と少女」のような短編。それらは確かによくできていて、世間的にも親しみやすい。だが記憶に残るのは「李さん一家」「もっきりやの少女」のような作品である。日常と隣り合わせでありながらどこにも存在しない異界のような時空。それらは陰鬱な詩情を奏でるとともに、記憶の深部に沈滞したノスタルジーとうらぶれたロマンチシズムを呼び覚ます。あと、この作者の描く少女は何気にエロいと思う。★1/2