水晶
『水晶(Bergkristall)』(1845 墺 アーダルベルト・シュティフター著/手塚富雄訳)
何年も前に買ったまま放置していた本。なんで買ったのかも忘れた。シュティフターのことはよく知らないが、『石さまざま』の有名な一篇「水晶」と序文のみを収めたバージョンである。雪山で遭難した幼い兄妹が一夜を明かし無事に救出されるまでを描いた素朴きわまるお話。「大草原の小さな家」の「穴に落ちたキャリー」を思い出した。映像メディアのない時代の作品なので、「百聞は一見に如かず」の事柄まで懇切丁寧に言葉で説明してあるので少々退屈。シュティフターは絵も描いたらしいので挿絵にすればいいと思うのだが。兄妹が遭遇する夜の幻想的な氷の世界(これがタイトルの由来)の描写がよかったのと、妹の決まり文句「そうよ、コンラート」が受けた。全体的に道徳の教科書みたいなトーンで、エンターテインメントの観点から言えば物足りないかもしれない。併録されている『石さまざま』の序文はシュティフターの信仰告白ともとれる。作者のまじめさの現れなのだろう。★