劇場版コブラ
「劇場版コブラ(SPACE ADVENTURE COBRA)」(1982 日 出崎統監督/寺沢武一原作)99分
テレビアニメ版に先駆けて制作された劇場版コブラ。ボインチャン・カワイコチャンを連発するオチャメなエロおやじとサイコガンを操る不死身の男という二面性がテレビ版コブラの魅力のひとつだとすれば、この劇場版コブラは比較的シリアスなうえサイコガンも鳴りを潜めているが、それが却って固有の魅力となりえている。小林七郎プロダクションの「よく動く」劇画調背景や、サイケデリックなオープニングから印象的な出崎統の演出も冴えており、映画としてもアニメとしても非常に斬新な印象を受ける。とりわけクライマックスのクリスタル・ボーイの崩壊シーンがすばらしい。「ファンタスティック・プラネット」のドラーグ人を思わせるクリスタル・ボーイのきもちわるさでご飯3杯はいける感じだし、初期キング・クリムゾン的な主題歌「デイドリーム・ロマンス」が重なるラストは何回観ても萌える。あえて難点を挙げるとすればコブラの吹き替えを担当した歌手・松崎○げるの暑苦しい声であろう。野沢那智によるテレビ版を先に観ているので松崎し○るの甲高いかすれ声は違和感ありすぎと云うべきだが、テレビ版の飄々とした軽さこそないもののシリアスな場面に意外とはまっているので、本人の黒褐色の顔面さえ思い浮かべなければこれはこれでアリかもしれない。ところでルパン三世やコブラのようなアウトロー的な英雄をアンチヒーローと呼ぶが、これはヒーローの対義語としての悪者(ヒール/ヴィレン)とは異なり、正義ではない側に肯定的なニュアンスを込めたメタ的な呼称である。普通に犯罪者である彼らが同時にヒーローであるゆえんは、架空の存在であるという前提以外に、超人的な能力を持つ一方でエロオヤジ的言動やセンチメンタルな要素など人間くさい側面を併せ持ち、時には巨悪という仮想敵を粉砕するなど英雄的行為に及ぶからである。いわば正義や平和のウソ臭い仮面を取り払い、人間の悪の部分を素直に体現しつつも、総体としてクールと思わせる、つまりいかに罪の意識を感じることなく「してわいけないこと」への欲求を解放するかという人類普遍の夢を仮想世界で実現しているからではなかろうか。いわゆる悪漢小説(ピカレスクロマン)を成立させているのがかっこいい犯罪者に対するわれわれの憧れだとすれば、それは時代や場所に固有の精神的風土というよりもむしろ遺伝子レベルで人類の記憶に刻まれているような気がする。ちなみにわたくしの憧れのアンチヒーローは「野獣死すべし」の快楽殺人鬼、伊達邦彦たんです。★1/2