ガキの足音はなぜけたたましいか
背後からバタバタとただならぬ勢いで迫ってくる足音。ふりかえると誰もおらず、脇を高速でかけぬけるガキの影。駅やデパートでこのような場面に遭遇した方もたくさんおられると思う。それにしても、やつらはなぜあのようなけたたましい音をたてて走るのだろうか。疑問に思っているのは恐らく私だけではあるまい。あの連中の常軌を逸した足音には果たしてどのような意味が隠されているのだろうか。またそこにはいかなる物理的・心理的メカニズムが作用しているのであろうか。この世紀のアポリアに挑むべく我々は「ガキ足捜査プロジェクト」(通称プロジェクトG)を立ち上げ、こそこそとリサーチを開始した。以下はその壮絶な調査結果の全容である。
・ガキは足が短い
文部科学省および厚生労働省の統計データに基づく綿密な分析を行なった結果、日本全国の10歳以下の児童の足の長さ(平均)は、成人のそれに比べて遥かに短いという事実が明らかになった。この場合、100kcalの熱量に対する足の駆動率(回転数/h)は成人のそれを遥かに上回る。すなわち、短い足をせかせかと高速回転することにより、せかせかと気ぜわしない感じに拍車がかかるのではなかろうかという結論に我々は達したのだ。
・ガキの靴は平たい
まず、ガキの靴は統計的に言って扁平であるという仮説から我々は出発した。重力加速度の大きさをg、静止摩擦係数をμとして小難しい数式とかにあてはめて計算すると、スリッパのように靴底の接地面積が大きいほどペタペタという音が発生しやすいと考えられるからである。この仮説に基づき全国の幼児靴・児童靴メーカー製品からランダム・サンプリング法によるデータ抽出を行なった結果、先の仮説を裏付ける有意の計測値が算出されたのであった。また、実際にスタッフが複数の児童靴を着用してみて、その大半が歩くとペタペタと音がしやすい構造になっていることを確認した。
以上は物理的な側面である。心理的な要因としては次の事項が想定される。
・精神高揚効果
まず、ガキは必要以上に音をたてることに無上の喜びを感じているという可能性が指摘できる。つまりガキは単純なので走ってバタバタ音をさせるのが楽しいのではなかろうか。ポリアンナも言っているが、人間は嬉しいことがあるとドアを静かに開け閉めできないそうである。これを裏付けるのが、よく電車のなかで遭遇するうざい親子連れであり、ガキがわけもなくハイテンションの奇声をあげる姿がしばしば目撃される。またこれに関連して、国外では自転車の車輪にカードをはさんでエンジン音を演出するガキの事例が報告されている。
・心理的圧迫感の演出
雑踏などの環境下にあっては身体的に脆弱なガキは常に外部からの脅威にさらされているのであり、けたたましい足音はその防衛本能から発せられた無言の存在表明と受け取ることもできる。「踏むな!」というわけである。もしくは、さらに極度の興奮状態にあった場合、攻撃的な自我が浮上し無意識のうちに自分の前を走る連中に「そこどけ!」と圧力をかけようとしているのかもしれない。肩をゆすって周囲を威嚇しながら歩くヤ○ザと同じ考え方を子供がしているとは考えにくいが、そういうあつかましいガキがこのご時世にいても不思議はない。それにあの足音を聞いて圧迫感を感じない人の方が珍しいと思われる。実際、私はそのようなガキの気迫を察知した場合、おとなしく道を譲ることにしている。
以上の調査結果を総合し、ガキの足音がけたたましい理由は、上記いずれかまたは複数の要因の複合によるものであると説明できる。
またしても世界の謎をひとつ解明してしまった。