Grand-Guignol K.K.K

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コロス

困った。今ごろポストの奥に年賀状をみつけたのだが、どうしたものか。正月はとうに過ぎたし、今さら返事を出すのもアレだしなあ。だいいち郵便代がもったいないよな。というわけで、見なかったことにしてこっそり闇に葬った。ぜんぶ日本の虚礼風習が悪いのである。なんのために普段から無愛想にしていると思ってんだまったく。それはともかく、その内容が実にひどかった。明らかに他人に幸福ぶりを見せつけるためのよくあるイヤガラセだったのである。常識で考えればこんなものをもらって相手が喜ぶわけがない。一応世話になった人だから笑えない冗談としてギリギリ許すが、これがぜんぜん知らんやつだったらブチ切れるところだ。君らだって「あけおめ!つかオレたちラブラブ超ハッピー&ノリノリなんスけど♪」「てゆーかアカチャン生まれたんだけど?(笑)」などと書かれた写真つき年賀状をぜんぜん知らんやつから受け取ったら迷わず「コロス」と呟いて破り捨てるはずだ。あのですね、人間というのは恐ろしいほど嫉妬ぶかい生き物なのですよ。だから自分が幸福だという自覚のある人はまちがってもそのことを口に出してはいけない。さもなくば圧倒的大多数の不幸な人々の怨念を一身に集めることになる(もちろん怨念を集めるのが趣味の人は別だ)。幸福な人がポジティヴな言葉を口にしても単なる嫌味にしかならないし、かといってネガティヴな言葉を口にしてもこれまた嫌味にしかならない。というか傍目にわかる幸福などというものは十中八九が他人の犠牲のうえに成り立っているという事実に目を向けるべきだ。他人への優越感というものは他人が存在しなけばありえないのである。いずれにせよ幸福な人が幸福であるという事実には何の生産性もないわけで、要するに幸福なやつは一生口をつぐんで押し黙っているべきだという結論に達せざるを得ない。幸福であることの代償は意外と大きいのである。反対に、ポジティヴな言葉を口にしていいのはネガティヴな人間だけであり、ネガティヴな言葉を口にしていいのもまたネガティヴな人間だけである。逆差別とかわけのわからない言葉を持ち出すまでもなく、差別主体が被差別主体により差別されるのは世の道理である。だから私が他人にお祝いを渡すときには「くだらねーこといちいち報告すんじゃねえよ」という皮肉をこめていますので、その点ご了承ください。