鏡
「鏡(ЗЕРКАЛО)」(1974 ソ連 アンドレイ・タルコフスキー監督)
タル様のスケベ。前作で催眠術をかけたら観客が本当に寝てしまったので、こんどは新手の芸風できましたね。なんとこの映画、眠くならないのである。屋内に容赦なく雨は降りガキは走り犬は吠えボロ小屋は炎上。タルコにあるまじき素早いカット割やめまぐるしいカメラワーク、気を抜くと見逃してしまいそうな一発ギャグやホラーシークエンスを織り交ぜつつ、幻視力に満ちたアンビエントな映像と音楽、呪文のような詩句をストーリーも時間軸も無視して自在に積み重ねていくのだが、ここまでとりとめなく交錯しているとこれはもはや映画などではなく、タルコ自身の明晰夢(エロ入り)を見せられているのだという気分になる。いやはや、実にエロい。「2001年」の最終章にピンクフロイドの「エコーズ」をシンクロさせたときのような官能美がある。ヒゲを生やしたこの変態詩人は、故郷かソラリスかどこか遥か彼方の地平を見晴るかしながら、ニヤニヤとあくまで真摯にわれわれの股間をまさぐるのです。★★1/2