パンと植木鉢
「パンと植木鉢(UN INSTANT D'INNOCENCE)」(1996 仏・イラン モフセン・マフマルバフ監督)
長い長いコント(笑)。ショッキングな俳優の顔面で観るものをまず混乱に陥れ、すっとぼけた戯画的演出と美少女を餌にちゃっかり巻き込みつつ、あっちでもこっちでもないとたらいまわしにしたあげくに突きつけられる鮮烈きわまるラスト。マフマフバフという名前からしてふざけているが、コイツはとんだ曲者ですね。劇中のあちこちに顔をのぞかせる周到なたくらみはマフマフたんの薄ら笑いそのものであり、低予算でいかに観客をおちょくるかに心血注がれているように見えるものの、次第にマフマフたんがあくまで真顔であることに気づく。作品全体がなんじゃこりゃと一蹴されかねないアクロバティックな一種の離れ業でありながら、その余韻がきわめて深く嫌味なく成立しているのは、この監督のあくまで実直な姿勢がなせる業だろう。★★