死ぬまでに一度言ってみたいセリフ
シチュエーション:
時は大正デモクラシー、変革の嵐が人々を巻き込み、新しい時代の息吹に誰もが不安ととまどいを隠せない。
フリルつきのひらひらの日傘を差したお嬢さんと燕尾服に身を包んだ俺が道を歩いていると、風体の悪い浮浪者風の男が立ちはだかる。
「いよう、お熱いねえご両人! 俺もあやかりてえなあ!」
無視して通り過ぎると、乞食はなおもしつこくつきまとう。
「ダンスパアチヰにお出掛けで? 俺も連れてってくれよう?」げひゃひゃひゃひゃ、と乞食が笑った。
俺は立ち止まり、振り返って敢然と叫ぶ。
「君、失敬じゃないか!」
一瞬ひるむ乞食。が、すぐに血走った目で俺をにらんできた。
「なんだてめえ、やるのかよう?」
不安そうに見守る娘。にじり寄る乞食。一度言いたくて仕方がなかったセリフをやっと言えたので大いに満足し、乞食と娘を置いて家に帰る俺。完