Grand-Guignol K.K.K

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都会のアリス

bitch692006-01-21


「うすく梳けばいいね?」
「もううすいわ」
「洗髪とマッサージは?」
「ぜひお願いするわ」

「何だって?」
「別に」

都会のアリス(ALICE IN DEN STÄDTEN)」(1973 西独 ヴィム・ヴェンダース監督)再見
あまり知られていない話だが、このヴィム・ヴェンダースというひと、昔はビム・ベンダースと名乗っていた。ビム・ベンダース。なんとなく頭が悪そうな名前である。クラスに一人はいる元気だけが取り柄のアホで、わるふざけがすぎて窓ガラスを割ってしまい廊下に立たされていそうな名前である。ヴェンダース本人もそれに気がつき、恥ずかしくなってこっそり改名したものと思われる。本来なら嫌がらせのため昔の名前で呼びつづけてやるところだが、こいつに限っては呼ぶ方も恥ずかしいのでヴィム・ヴェンダースで統一しておく。
さてそんなことはどうでもいいのだが、この「都会のアリス」。たぶん今まで10回ぐらい観ていると思う。最後まで見るとまた最初から観たくなり、延々と観つづけてしまうのである。それぐらいいい。同時期に作られた「ペーパームーン」とあまりにも設定が似ているので、ヴェンダースがシナリオを変えたとどこかで聞いたような気がする。オリジナルがどんな内容だったのかは不明だが、だとすると偶然に導かれて出来上がった傑作であり、まさに奇跡としか言いようがない。
ニューヨークを放浪していた青年が、旅行記を書けずに失意のまま故郷のドイツへ向かう。その途中、ひょんなことから見知らぬ母娘と道連れになる。しかし出発の日に母親は失踪。青年は少女のあいまいな記憶を頼りに、オランダに住むという祖母の家まで送りとどける羽目に。当初はわがままなアリスをもてあまし気味だった青年だが、いつしか二人の間に親子にも似た絆が生まれる・・・。自己喪失の危機にあった青年が、旅を通して変容する過程を描いた作品である。世界と断絶し閉塞していた魂が、再生と解放の物語として蘇りはじめる。決して劇的な変化ではないし、ことさらに感興を煽ることもない。ひたすら淡々とした視点で描かれる。ひそやかだが確実な変化。映画はそのささやかな兆しを暗示するだけである。だからといって退屈なわけではない。なんでもない日常の風景ややりとりが、不思議と心に迫る。映像のざらつき具合やけだるい雰囲気、暗いテーマ曲などもごく心地よい。わがままで膨れっ面のアリスがかわいい。なにげないアリスの発言に本質的な指摘が含まれていてどきりとする。一方で、青年に父親の影を見たり、子供らしい嫉妬をするところなんかがいい。旅を通してアリスもまた成長するのだ。そして極めつきのあまりに美しく切ないラスト。飛行機から砂浜、橋の下の乞食のような男へのパンで始まったこの映画は、奇跡のように神々しい空撮で幕を閉じる。開放した車窓を見下ろし軽やかに舞い上がるカメラ。遠ざかる地上の光景に陰鬱なアコギが重なり、未完結の余韻が静かに解き放たれる。なんど観ても胸が締めつけられるシーンだ。
ああ、うっかりいやらしい映画ファンみたいな感想を書いてしまった。こんなはずではなかったのに。今は反省している。だからDVDメーカーはぜひともこれのDVDを二度と再販しないでほしい。そこいらへんのやつらに見せてやるにはあまりにも惜しいからである。そう、こんなのぜんぜん傑作じゃありませんよ。よい子のみんなはビム・ベンダース監督の大傑作「パリテキ」をぜひとも観てくださいね!