ローズ・イン・タイドランド
「ローズ・イン・タイドランド(TIDELAND)」(2005 英・加 テリー・ギリアム監督/ミッチ・カリン原作)117分
きちがいアリス 1ねん1くみ さかたとしお
アンドリュー・ワイエス「クリスティーナの世界」を思わせる草原。傾いたキャメラがとらえる一軒家の静かで狂的なたたずまい。ジョナサン・ミラーの「Alice in Wonderland」やシュワンクマイエルの「アリス」を髣髴させる奇抜なショット。線路のシーンなんて個人的には「ミツバチのささやき」にも匹敵するぐらいすばらしいと思います。そしてただのクソガキかと思いきや物語の進行に伴い驚くべきエロスをまといはじめるジョデル・フェルナントカちゃん。彼女が時おり見せる虚ろでアンニュイな翳りは所帯やつれかと見まがうほどです。このように、本作は魅力的な構成要素とイメージにあふれた思春期ダークファンタジーとしての風格を十分にもちあわせている。が、最大の問題はフェルナントカちゃんの異常なひとりごとの多さであろう。人形の首を愛ずる少女という設定はじつにエロいのだが、あの半きちがいの寝言のような異常なつぶやきの奔流には観客の感情移入を拒絶する何かがある。孤独な変人少女のイカれたママゴトと奇矯な言動から導きだされるのは、ジェライザ=ローズの頭がおかしいという凡庸な結論のみであろう。本来なら少女の深層心理に切り込み、少女の妄想世界と地続きの現実として深化させるべき題材を、ギリアムは非常に表層的なレベルで多重化し、どこにも収束しない投げっぱなしの悪夢としていつもどおり提示したわけだが、このような情報過多による映画的カオスは観客の脳に悪夢をもたらす一方で《映画》への陶酔を阻害すると思うのだがどうか。★1/2