今日の童話
野糞の墓 1ねん1くみ だにえる・かーる
「今朝、かっこぃぃUNKOが出たのでいっしょに記念撮影したお☆
うpしたから観てね〜♪ ̄∇ ̄)ノ」
逸る心を抑えつつリンクをクリックすると、そこには頬を赤らめた美少女が自己の巨大な副産物とツーショットを決めているおぞましい光景が映っていた――。
うんこ専門のインターネットサイトがあるという噂がネット上に流れたのは今から3年前のことであるが、実際にそのサイトを見たと言う者はなく、ネット界隈の都市伝説と化していた感があった。しかしこのたびわたくしは、極秘ルートを通じて遂に探し当てたのである。幻のうんこサイトholysh*t.comを。
「生体内で食物を分解しウンコに変換する作業。これこそは最も美しくダイナミックな生体活動であり、自己と自然との尽きせぬ交感である」
このような声明がトップページに記載されていたが、中身はよくある画像掲示板で、冒頭のような見るに耐えないスカトロ画像が大量にアップロードされていた。まさに糞サイトだった。
しかし唯一わたくしの興味を引いたものがあった。サイトの片隅にひっそりと紹介されていた幻の《うんこの聖地》の存在である。
こうして、西アフリカの奥地に存在するというその聖地を訪ねるため、わたくしたちは一路取材の旅に出発したのである。
***
それはウンパギと言う小さな村のはずれにあると言われていた。ウンパギ村は、正体不明の唯一神を中心とした閉鎖的な宗教共同体らしく、その神の名を口にしたものは必ず死ぬと言う不吉な噂がつきまとっていた。
村にたどり着くとわたくしたちは早速取材を開始した。
木陰に佇んでいた男にわたくしは背後から声をかけた。
男はギョッとして振り返り、あわててパンツに何かを押し込んだ。
「なんだよ!」
男は指をズボンでぬぐいながら、決まり悪そうにわたくしたちを睨む。
「お取り込み中すみません。わたくしたちは日本から来たテレビ番組制作会社の者です。この辺りにうんこの聖地があると聞いたのですが・・・」
男の顔がたちまち青褪めた。
「し、知らん! 知らん知らん!」
「この村には謎めいたものを感じます。聞けば、村人が信奉する神様が存在するというではありませんか。その名を口にしたものは必ず死ぬとも」
「知らないってば!ただの迷信だ、ばかばかしい。誰が唯一神クウソなど・・・しまっ」
あべしっ!、と男の顔面がいきなり破裂した。血柱を噴きあげて崩れ落ちる男の残骸。
わたくしたちは震えあがった。呪いは確かに実在したのだ。
村の外れに「キケン」「ハイルナ」とペンキで殴り書きされた一画があり、ターバンを巻いた少女が入り口に立っていた。
少女は鋭い声でわたくしたちを諌めた。
「この村は呪われている。命が惜しくばいますぐここを立ち去れ!」
「覚悟は出来ています」
わたくしたちは少女の制止を振り切り、キケン地帯の内部へ歩を進めた。
「おお!」
「これは・・・!」
驚くべき光景がそこに拡がっていた。
見渡す限り一面の野糞。赤や黄色や焦茶色、色とりどりのカラフルなうんこたちが、思い思いの形で群生していた。
なによりわたくしたちの度肝を抜いたのが、中央に聳え立つ巨大なオブジェの存在だった。全長10メートルはあろうかと思われるその造形物の圧倒的な質量と、奇妙にねじれた、不機嫌なソフトクリームのような色と形状・・・それはうんこで作り上げた巨大な仏像であった。うんこで塗り固めた全身にうんこ色の薄い衣をまとい、頭部には小粒の渦巻きうんこが螺髪として丹念に敷き詰められていた。《彼》はあたかもスカトロ=フェテズムの涅槃にまどろむ神のように、瞑目したまま、巨大な蓮の葉の台座に結跏趺坐しているのだった。うんこに神が宿るとはよく言うが、こいつはまさに「生きて」いた。それは《自然》の一部であると同時に、一個の強固な意志を以て、屹然とわたくしどもに対峙していたのである。めくるめく戦慄の波動(プルス)が全身を貫き、名状しがたい感動とともにわたくしはその場に立ちすくんだ。なおかつ恐懼した。あと畏怖した。
「なんて、美しいんだ・・・!」
一同から感嘆のため息が洩れたとき、何者かがわたくしたちの前に立ちはだかった。
「ようこそ、うんこの聖地へ」
そこに現れたのは、先ほど入り口でわたくしたちに警告を発した少女だった。
「ここはすべての生命のふるさと。過去、数多の敬虔な信者が自らの痕跡をこの大地に刻んで参りました。己が生の証を残すために!」
そう叫ぶと少女はターバンを外した。三段うずまきヘアーが禍々しく蜷局を巻いていた。
「君は、一体・・・」
「われこそは、唯一神クウソなり!」
そう叫んだ瞬間、少女の顔が後悔に歪み、ひでぶっ!と頭部が炸裂した。
突如大地に亀裂が走り、頭の割れた少女の亡骸を大量の野糞もろとも呑み込んだ。同行したスタッフと取材キャメラも一瞬で地割れの底に消えた。
わたくしは震えながらその光景を眺めていたが、足元に亀裂が迫ったので走り出した。地鳴りの続く道を夢中で辿り、どうにか村の外へ逃れ出た。
振り返ると、件の大仏が視界をウンコ色に染めながら轟音とともに崩壊するのが見えた。(了)