漂流教室
「漂流教室」(1972-74 日 楳図かずお著)(全6巻)
「いけにえにされるんだっ!!」
「いけにえ!?」
「そうなんだ!火あぶりにするんだ!そしてくるしんでいるところをヤリでつきさすんだ!!」
「なんだってっ!?」
(あらすじ)
荒廃した未来世界に突如学校ごとタイムスリップした子供たち。そこは自然も文明も途絶えた砂漠のど真ん中だった。迫りくる死の恐怖。極限状況のなか、子供たちの間でワーキャーと壮絶な殺し合いが始まる(笑)。
(かんそう)
集団消失(いわゆる神隠し)ものにSF的ひねりを加えた「ランゴリアーズ」みたいなお話ですが、中身は怒濤の笑グロバイオレンス。恐慌状態(パニック)に陥った集団が自壊していくさまを見るのは楽しいものですが、一難去ってまた一難、面白いぐらいに災厄が降りかかる少年少女の苦境をこれでもかと延々描写しつづける。筋金入りの変態でないとできない芸当でしょうね(笑)。6巻に及ぶ長編ながらもテンポよく人が死んでいくので深く考えずに読み進むことができます。マンモス校なので死者の数も半端ではありません(笑)。ただしグロといっても比較的ソフトで、陰惨というより笑えました。とくに主人公の少年のため現在で奮闘する母親の言動が異常すぎて爆笑を誘います。母親が大活躍する第4巻の大木選手とのやりとりは完全にコントですね。
「わたしはやがて、この病院を去ります」
「いいえ、あなたはこの病院で、ミイラになります!」
あと一つ目教のくだりも最高です(笑)。
「あっ!!それは!!」
「これは、わたしたちの神様よ。わたしたちは、神様をおがむために、こっそり集まったのよ。わたしたちは、一つ目教を始めることにしたのよ。咲子さん、あなたも一つ目教にはいるのよ」
問答無用のご都合主義的展開や棒読み調の説明的な台詞まわしなどツッコミどころ満載ですが、突っ込んだら負けでしょうね。こういうのは荒唐無稽を画に描くから説得力が生まれるのであって、実写だとリアリティが足枷となってこれほど飛躍できない。大林宣彦監督の同名愚作や外国のやつが失敗した原因もそこらへんにあるんじゃないでしょうか。ただ、ひとつだけ違和感を覚えるのが、とってつけたような明るいラスト。着地点としては無難なのでしょうが、日野日出志「地獄変」のようにとことん救いのない方がこの作品には似つかわしく思えます。ノストラダムスのせいでいまだ世紀末コンプレックスを脱し切れないわたくしどもにとって、アカルイミライほど欺瞞的で嘘くさいものはないからです。思えば世紀末はわたくしどもの夢(あくがれ)でありました。死の欲動を満たす手軽な麻薬として「おしまいの日」を、絶望と退廃に満ちた未来の透視図を思い描いたのです。殺伐とした現実よりも終末世界に咲き誇る繚乱たるグロ花の方が美しい。本作はそんなデカダン世代の暗い≪希望≫を映した秀作といえるかもしれません。★1/2