A Pervert in the Dark Aims at YOUR Bottom
『ガストン・ルルーの恐怖夜話』収録の「胸像たちの晩餐」という話に「キュイキュイ」という不快音を立てて移動するキャスターつきのいざりの描写があったが、他人の足音はとかく神経にさわるものである。コツコツ、セカセカ、スタスタ、ツカツカ、トコトコ、ぺたぺた、どたばた、ぎっこんばったんといった一連の擬態語や擬音語に表象される歩行音にはろくなものがない。ドタ靴、下駄、ハイヒール、スリッパ、長靴、幼児靴など、いかなる靴もその不快さを完全に吸収することは不可能である。だからもしもタラチャンが例のオルゴールのような歩行音をたてながら「北朝鮮歩き」などしようものなら、かんしゃくを起こしたサザエによって布団たたきかなんかで虐待されたとしてもやむを得ないだろうとすら思う。では音を立てない「忍び歩き」がいいかというとそうでもなくて、たとえばインターネットでエロサイトを閲覧中に背後から音もなく誰かに忍び寄られたらとてもいやな気分になるだろう。要するにスリッパでけたたましく歩くおっさんも夜道をコツコツと高速で追い上げてくるおばはんも、アスファルトをトコトコ移動する四つ足も夜道を音もなく忍び寄る変態も、うざさの点ではさほど変わりないと言える。足音はみなうざいのである。
音をたててもたてなくても神経に障るのなら、できるだけ他人に不安やストレスを与えない歩き方というのは果たしてありえるのだろうか。試みに「ぱふぱふ」という歩行音などどうだろう。
夜道をたどっていると背後から何者かの足音が近づいてくる。
「ぱふぱふ、ぱふぱふ」
立ち止まって振り返るが誰もいない。気持ち悪くなって自然と早足になる。すると歩調を合わせるかのように「ぱふぱふ」という足音も速度を上げてくる。
「すたすたすた」
「ぱふぱふぱふ」
「すたすたすたすたすた」
「ぱふぱふぱふぱふぱふぱふ」
やっぱりうざい。