闇の声/新・闇の声 潰談
『闇の声』『新・闇の声 潰談』(伊藤潤二著)
どっかの雑誌に連載されていた短編作品を集めたもの。総じて平均的な作品が多く、イヤな話やキショイ話になれている人には少々物足りないかもしれない。その中でひときわ異彩を放つのが「グリセリド」「双一の愛玩動物」。この二作は図抜けてすばらしい。そもそもこの作者の作品の特長は単純に怖いとかいうものではなく、生理的な不快感とギャグが一体になったキショおもしろさにある(『うずまき』しか読んだことはないが)。意図的に挿入されたまぬけな台詞やシーン(一般にしばしば稚拙さと同一視されがちだが)がホラー作品としての箍を巧妙にはずしていることにご注目いただきたい。したがってホラーとしての破壊力には欠けるがえげつなさの少ない上品な印象を受けるのだ。その意味で邦画『うずまき』は原作に忠実なじつに適切な映像化がなされていたと思う。またこういう短編にありがちな意図的に「落としにかかる」瞬間がないのも好感が持てる。★