ふたりのイーダ
「ふたりのイーダ」(1976 日 松山善三監督/松谷みよ子原作)102分
♪ぎっちょんぎっちょんこめつけこめつけ
♪さよならあんころもちまたきなこ
おもろうて、やがて悲しき 皇紀2677年8月6日 ののむらりゅうたろ
椅子が歩いてしゃべって空を飛ぶというファンタジックな要素と、70年代お化け屋敷ホラーにも通じるテイストが融合した、ファンタジックホラーの秀作。
いわさきちひろのイラストと怪しさ全開の陰鬱なチューンで構成されたオープニングからただならぬ吸引力を感じる。
ホラー演出がとにかく秀逸。廃屋に配置されたネガティブアイテム(終戦前の日めくりカレンダーや汚れた西洋人形)、キイキイと動き回る椅子の造形や表情の演出(ジジイっぽいアテレコがどこなくユーモラスで憎めない)、それを支えるヘタウマ子役の巧まざるリアリティ(唐突に挿入される子どもの笑い声や泣き声、狂ったようにリピートされる謎の童謡!)。
他にもアニメーションによる悪夢シーンや、椅子がショックを受けた時の心象風景、原色処理を施した川底のホラーシークエンスなど、印象的なシーンが多い。
椅子が昨日の出来事と三十年前の出来事も判別できないほど認知を患う一方、死者が一様に正確な時間感覚を有し、現世あるいは生への強烈な執着を見せる。幻のイーダへの追憶のなかに生きる「道具」と、川底にうずもれたまま成仏できない「死者」との邂逅。両者の出会いは虚構と現実が奇妙な融合を見せる瞬間である。
最後に現実をとりもどした椅子の「私は原爆を見た!」という独白調のセリフと投身自殺で幕を閉じる本作は、現代人のふやけた脳裏に痛烈な一撃をくらわすことだろう。夏休みのお子様への嫌がらせにどうぞ。★★
https://www.nihon-eiga.com/program/detail/nh10006319_0001.html