セリア/少女に何が起こったか
「セリア/少女に何が起こったか(CELIA)」(1988 豪 アン・ターナー監督)
ずっと気になっていた廃盤ビデオを入手した。米公開時には「CHILD OF TERROR」なんてあざとい副題がつけられたようで、確かに一種のアンファンテリブルものだが、別にホラー作品というわけではない。1950年代に豪州で起こった「ウサギ没収事件」を背景に幼年期の心理の闇を描こうとした作品である(たぶん)。祖母の死、魔物の妄想、肥満ウサギ、幻想に侵食される現実、能面の裏側から覗いた世界、白昼夢にも似た砂地の光景、暗闇のなかで行なわれるブードゥー儀式。「ミツバチのささやき」を意識したような手ざわりを残しつつ、幼年期の死に近しい感覚が、禁じられた遊び=儀礼を通して象徴的に描かれている。ただ、監督の意図はいざ知らず、政治的な視点がからんだ瞬間焦点がぼやけはじめたし、現実と空想の間の深淵をすべり落ちていくさまは「乙女の祈り」を想起させるものの、破綻のスケールから言えばその半分にも満たず、全体としてはいまいち中途半端な作品に仕上がっている。幼年期映画の傑作になりそこねたような印象がある。魅力的なアイテムに富んでいるだけに、惜しい。
ちなみに、セリア役のレベッカ・スマートが主演した「サンシャイン・ロード(THE SHIRALEE)」(1987)はロードムービーの隠れた秀作である。「ペーパームーン」よりよっぽどお薦めできるので、ビデオ屋の隅で見かけたら借りて損はない。長いけど。★