うぉをゑゑゑゑゑっ
まったく思い出すだけでゲロがこみあげてくるのだが、前に住んでいた安アパートで、朝7時ぐらいになると隣の部屋のやつが必ず、
「うぉをゑゑゑゑゑっ!」
というわけのわからん奇声をあげていた。頭がおかしいのかな、と思っていたが、どうやらゲロかなんかを一心不乱に喉から追い出そうとしてるらしい。まともな人間なら、それ以外の理由であんな怪音を発するわけがないからである。で、出しているのがゲロだったら病気か悪阻だろうし、でっかい寄生虫なんかだったらもはや終わっているわけだが、それはともかくこちらとしてはいい迷惑である。きもちわるいのでいいかげんにしろと文句を言いたかったのだが、玄関のドアが開いたとたんそいつの吐き出した芋虫エイリアンに憑依されないとも限らないのでとうとう怒鳴り込めずじまいだった。そんなわけで俺は謎の嘔吐ヴォイスにさんざん悩まされた末、ある日そいつを目覚まし代わりに利用する手を思いつき、おかげですっかり早起きの習慣が身についたのではあるが、ただこちらも毎日同じ時間に起きるとは限らないので、運悪く朝飯前なんかに聞かされた日には食欲なんぞ一気に減退してしまう。ひどいときには食っている最中に「うぉをゑゑゑゑゑっ!」が聞こえてきて、思わず食ったものを戻しかけたこともある。あー、思い出すだけでむかむかしてきた。やっぱりこのままでは腹の虫がおさまらん。というわけで、そいつに損害賠償を請求する代わりにひとつうまい商売を思いついた。あの「うぉをゑゑゑゑゑっ!」をはじめとして、「げほごほがほごほげほがほげぼおっ」とか「えへえへえへんえへん、えへんえへんえへげへえええええっ!」とか「ぶじゅるううううびしゃっ、きゅいーん」とか「んかかかかかぁあああっ、ぺえぇっ!」とかいう巷にあふれるわけのわからん汚い音ばかりをサンプリングして、「聴くだけで痩せる!超ダイエット革命〜君が代リミックス〜」などと適当な題のCDにして売り出したら肥満が気になる紳士淑女の間で人気爆発、発案者である俺のもとには大金が転がり込み左ウチワの印税生活が待っているかと思いきや例の「うぉをゑゑゑゑゑっ!」のやつが著作権を盾に訴訟を起こしたりなんかして裁判が泥沼化したあげく金も時間も無駄にすりへらすだけなのでまずやらないと思う。