素晴らしい風船旅行
「素晴らしい風船旅行(LE VOYAGE EN BALLON)」(1960 仏 アルベール・ラモリス監督)
「お馬鹿さんだな。羊が出られると思ってぐるぐる回ってる。」
「赤い風船」のアルベール・ラモリスが風船から気球に乗り換えて魅せる一篇の<映像詩>。まあ「赤い風船」は短編だから意味があったので、長編にしてしまうとこれといったドラマもなく退屈といえば退屈である。そんなわけで打ちのめされはしなかったが、なにしろ全編のたぶん9割近くが空撮。空撮というのは要するに一種の映画的な官能なのである。映画的な官能というのは要するに映像を観てエロを感じるということだが、カメラの動きとか物体の運動とかそういうものにエロを感じる。遠ざかる地上の風景なんてあまりにもドラマチックで「恐怖のメロディ」とか「冒険者たち」とか「死霊懐胎」とか、これさえあればどんなにつまらない映画でも秀作に見えてしまうという必殺のテクだがこの映画のラストシーンも非常に美しく胸のつまるような叙情というかエロに満ちているのだ。★1/2