カンニバル!THE MUSICAL
「カンニバル!THE MUSICAL(CANNIBAL! THE MUSICAL)」(1993 米 トレイ・パーカー監督・脚本・音楽・主演)
「アンデスの聖餐」というドキュメンタリー映画を思い出してしまいますが、登場人物の加速していく狂気がすばらしいですね。ここに描かれているのは過酷な大自然と人間の相克であり、ゾンビ映画とは異なる生身の人間の生の葛藤です。トレイ・パーカーは真面目な人で、ドキュメンタリー+ミュージカルという一見矛盾するスタイルを援用することで、ともすればセンセーショナリズムに流れがちな題材を、現実を極限まで見つめたまなざしのみが捉えうる痛ましいまでのリアリズムへと昇華しつつ、実在の「食人鬼」アルファード・パッカーが食人に至った経緯を克明に写し取っていきます。だからこそ、美しい自作の曲を歌い踊る人々と血みどろの光景との対比は時にポエジーすらたたえ、生の残酷さと人間存在の深層をわれわれの目の前に鋭く突きつけるのです。死と隣り合わせた極限状況下での「雪だるまを作りたい」「貧乏でもいいから生き延びたい」という痛切な魂の叫びに深い感銘を覚えずにいられません。これは飽食に溺れた現代社会への問題提起であり、激動の生涯を貫いた一人の男の痛ましくも神々しい祈りなのである。★1/2