放送
「青森県からお越しの猫山さま。妹さまが、カバンのなかで冷たくなっておられます。青森県からお越しの猫山さま……」
通りを歩いていると、おれの名を呼ぶアナウンスが入った。なんでこんなところでアナウンスが入るのだろう。さっぱり分からなかった。それにしても変なアナウンスだった。おれの妹がカバンのなかで冷たくなっているとは、いったいどういうことだ。
そのとき、かたわらを太った男が通りすぎた。男の持っている大きなカバンを見ておれは胆をつぶした。半開きになったジッパーの隙間から、白い手がにゅっと突きだしていたのだ。ははあ、これか。カバンのなかで冷たくなっているとは、このことに違いない。おれはあわてて男に駆けより、カバンの把手を強引につかんでこう叫んだ。
「これはわたしの妹だ。返してください」
おれはカバンを無理やり奪いとった。男は顔色を変えて必死に抵抗した。
「なにをするんです、わたしのカバンですよ!」
おれも負けなかった。
「これはわたしの妹なんです。わたしの……」
そこまで言っておれはハッと気づいた。よく考えると、おれには妹などいない。
ぼんやりと手にもったカバンを見おろすと、突きでた白い手がおれのサイフをしっかりつかんでいた。
という夢をみました。