ドリームチャイルド
「ドリームチャイルド(DREAM CHILD)」(1985 英 ギャヴィン・ミラー監督)
「不思議の国のアリス」成立の背景を実話ベースで描いた作品。一部の方にはもはや説明の必要もないだろう。その一部の方が「アメシャン」「ドリムチャ」と騒ぐのでまるでアメリア・シャンクリー主演のように思えるが、残念ながらこの映画の主役は傘寿を迎えたアリス婆さんである。ルイス・キャロル生誕百年を記念してアメリカに招かれたアリス婆さんが、思いがけない人々の喝采に戸惑いながらも、ドジソン先生=ルイス・キャロルの愛情に改めて気づくという話。みどころとしては、情緒不安定になった婆さんの脳裏に子供の頃の回想と不思議の国の妄想が訪れるのだが、なかんずく金色の午後の手漕ぎボートと川べりのシーンがえも言われず美しい。子供時代のアリスを演じるアメリア・シャンクリーがとてもキュートで色っぽく、とりわけアリスがドジソンに水をぶっかけるシーンと無言でそっと抱きつくシーンにはたまらんものがある(この瞬間ルイス・キャロルはロリコンの神様になった)。で、あえてケチをつけると、やはりババアが主役というのは困ります。フィクションが現実に寸断される不快さがついてまわり、素直に感情移入することができない。せっかくジム・ヘンソンのマペットまで使ったのだから、アメリア・シャンクリー主演で「不思議の国のアリス」を忠実に映画化してほしかった。過去に実写作品とアニメを数本見たが、ダークファンタジーとしてのアリスを具現しているのはシュワンクマイエルの「アリス」ぐらいのものである。シュワですらチェシャ猫をわざと外したぐらいで、この作品の映像化がいかに困難であるかを物語っている。「ラビリンス」は単なるお子さま冒険ファンタジーに過ぎなかったが、「不思議の国のアリス」は原作がすでにナンセンス文学の頂点を極めているのだ。
◆参考文献◆
『アリスのティーパーティ』(ドーマウス協会)
「不思議の国のアリス」の言葉遊びを中心に原文に即して解説した本。物語にまつわる逸話のほか、テニエルの挿画やキャロルが撮影した少女写真も収められている。