ドグラ・マグラ
「ドグラ・マグラ」(1988 日 松本俊夫監督)再見
『黒死館殺人事件』『虚無への供物』は大昔に買ったままめんどくさいので読んでいないが、『ドグラマグラ』は悶絶しながら読んだし映画もそれなりに愉しんだ。原作のもつあの粘着質で重量級の悪夢感覚には到底およばないが、あれほど錯綜した話から説明可能な部分を抽出してコンパクトにまとめあげるとこんな感じになるのかという、それだけで感心した記憶がある。もちろんモヨ子たんのエロっぽい美少女ぶりは言うに及ばず。『ドグラマグラ』を図式的に整理すると、時系列に反復する事実の縦糸と無限ループする記憶の横糸があって、それが同時に第三者的な悪夢でもあるというメタ構造になっているのだが、そういう表面的な解釈を阻むために仕組まれた巧妙なからくりに絡めとられ気がつくと元の位置に放り出されてポカンとしている、というような呆然感がキモになっている。不可能なパズルの面白さというか、抽象思考の耐えがたさから来るあのボンヤリした快楽と同列にあると思う。ボルヘスの『円環の廃墟』やジョン・カーペンターの「マウス・オブ・マッドネス」のような入れ子式の地獄と同じで、単に錯乱するだけの迷宮ではなく緻密に構築されたフラクタルでトポロジカルな迷宮になっているのだ。そしてその迷宮の中心には狂った胎児が鎮座している。さあ狂えとそれは笑っている。