ラルジャン
「L' ARGENT」(1983 FRA/CHE Directed by Robert Bresson)邦題「ラルジャン」Region1 81min English-Subtitled
ブレッソンと言えば極貧エロスの金字塔「少女ムシェット」。エロく貧しく美しいムシェたんのあまりの救われなさにワタクシも、悲鳴をあげつつ魂が勃起するのを禁じ得ませんでした。われわれはみな他人の不幸や貧乏に萌える変態に過ぎないという事実に思いを馳せるとき、そんな生き地獄のような現実を、主観を排した無表情なカメラで捉え、ひたすらテキパキと無機的な話法に徹することのできるブレッソンこそ真の変態帝王といえるのではないでしょうか。さて、そんなロベール・鬼畜・ブレッソンの遺作である本作は、ひょんなことから無実の罪で逮捕された貧しい青年が、すべてを失ったあげくに大量殺人に至るまでを描いた作品。ストーリーそのものはたいへんシンプルです。ただ、登場人物が多すぎて見分けがつかず、似たようなやつが矢継ぎ早に出てきて混乱するのが難点。先にあらすじ見とけばよかった。ドキュメンタラリータッチで無表情に進行するスタイルはムシェットと変わりませんが、あまりに淡々としているのでアクビを催すほどです。手から手へとリレーされる物品の執拗な描写が強調されるぐらいで、前半は興味を持続することすら難しい。しかし逆にラスト20分間の緊張感は強烈。抑制しきった画面に唐突に挿入される凶暴なシーンがあれほど恐ろしいのは、感情を排除し、音楽を排除し(音楽と言えば大バッハのなんかをジジイがピアノで弾くぐらい)、説明を排除し、省略に省略を重ねた演出であればこそ。ほんとは前半をもう少し省略してもいいかなと思いましたがそれは内緒です。ドシロウトの棒読み台詞とロボット演技のみを要請するブレッソン作品は、一般的にはとっつきづらいかもしれません。信者が軒並みキモイことでも知られるブレッソンですが、そこらへんが選民意識をもちたがる変態に受ける理由かもしれませんね。★1/2