旅の重さ
「旅の重さ」(1972 日 斎藤耕一監督/素九鬼子原作)90分
ある日私は自分の骸骨と向かい合った
骸骨は始終黙ったまま
ほら穴のような暗い目の奥から
絶えず私に微笑みかけた
白い骨の関節がきしんで
私の手をなでた
・・・私は、自分自身を悩ますこの幻影から逃れるためにも旅に出たかったの。
というよくわからない理由でお遍路一人旅に出た十六歳の少女(高橋洋子)。乞食遍路にからかわれたり、ヒッチハイクしたトラックの運転手に臭いと言われたり、映画館で知り合った痴漢に昼メシをたかったりしながら旅芸人一座にもぐりこんだものの、複雑な大人の世界に少女は傷つき、ふたたび一人で旅立つ。そうこうするうちに栄養失調で死にかけていたところをサル顔の中年漁師(高橋悦史)に見つかり長屋に連れ込まれるが、イヤらしい行為に及ぶでもなく献身的に看病する寡黙で仏頂面の悦史に少女は好意を抱く。タンクトップ姿で悦史の体を拭いたり添い寝をねだったりと明らかに挑発するものの、ストイックな高橋悦史は、野良猫にお情けで餌をやったら懐かれてコマッタ、みたいな顔をするばかり。折しも留守中の悦史の服に顔をこすりつけてヨガっているところへ戻ってきた悦史に少女はなぜかいきなり逆立ちをしてみせ、あげく男にも逆立ちを強要する。失敗して転倒した悦史に欲情した少女はハァハァと喘ぎながら襲いかかるものの、われに帰った悦史に拒絶され、傷心のまま外に飛び出す。やがて少女は海岸に打ち上げられた知り合いの文学少女(秋吉久美子)の自殺死体を目撃したあと、悦史のもとに戻り号泣する。こうして少女は漁村にとどまることを決意し、オバサンへの一歩を踏み出すのであった。
【感想】
素朴で淡々とした感じの良い映画でした。ママ(岸田今日子)へ宛てた手紙形式の青臭いモノローグが全編に散りばめられていてなかなかコッパズカシイものがあるが、四国の美しい自然と貧しい町並みを背景に思春期の少女の葛藤と自立が描かれ、ロードムービーの秀作たりえている。主演の高橋洋子はとりたてて美少女ではないものの、ブスカワ系のルックスが微妙にエロく、初々しさと屈折とを併せ持った鮮烈なロリータぶりを放っている。小娘に翻弄される高橋悦史のうろたえぶりも可愛らしい。★★