無能の人
「無能の人」(1991 日 竹中直人監督/つげ義春原作)107分
この世には死んだように生きてらっしゃる方がいます。彼らは石のようにひっそりと息を詰めて、朽ち果てるのを待っています。それは、誰からも顧みられることない路傍の石であったり、はたまた人生街道から転落したライク・ア・ローリングストーンであったり。われわれはみなこの石のようなものです。あたかも有能であるかのごとく振る舞うことを要請されますが、一旦それをやめればわれわれはひとしく無能です。それはなんと魅力的なことなのでしょう。堕落をみずから望むなど愚か者のすること。有能であることをあきらめてしまった人、またはそうならざるを得なかった人々の悲しみなどわかるはずもない。「転石、苔を生せず」という諺があり、意味は知らないのですが、いずれ細石の巌となりて苔のむすのがわれわれの宿命なのです。というわけで、おもしろい映画ではありませんが、侘び寂びというか枯淡というか、画面から匂いたつ強烈な貧乏くささが捨てがたい作品でした。風吹ジュンはこういう主婦役がよく似合いますね。竹中直人は濃すぎるのではないかと思った。石山石雲の妻のあの流し目に★ひとつ。