沙耶のいる透視図
「沙耶のいる透視図」(1986 日 和泉聖治監督/伊達一行原作)102分
「夢ばかり観るんです。起きていても夢が私のそばにいて、いつも半分眠っているみたい」
「私、人にものを食べているところを見られると吐いちゃうんです。食べるために生きているようでイヤなの」
謎の美女が車に残したスケッチブックには全裸の男、しかも男性自身はケロイドケロタンだった・・・。いかにもあざとい導入だが、全編に漂う陰鬱なムードは特筆すべきで、ショックシーンの大仰な音楽も心地よい。抑圧されたヒロインを演じる高樹沙耶が美しく、たどたどしい台詞回しや焦点の定まらぬアンニュイな視線も精神の歪みを暗示してミステリアスだが、惜しいことにこの人、声がオッサンっぽい。それでも黙っている限りは可憐で妖艶さも秘めているので、「ダイアモンドは傷つかない」の田中美佐子ほどエロくはないものの、トラウマ不感症&摂食障害、自殺志向のコマッタチャンを無難に演じていると言えるだろう。また一風堂・土屋昌巳がたいへん気持ち悪く、控えめに言ってもモイキーなのだが、台詞による《謎》の説明は屍姦プレイへと至る精神の狂おしさを裏付けるには貧弱で、土屋昌巳の不気味なルックスのみに依存したクライマックスも茶番じみて映るのが惜しまれる。精神病院の回想シーン(加賀まり子がいい)や「透視図」の雨垂れシーンなど印象的なシーンもいくつかあるので、もう少し救いのなさや絶望感が出ていたら傑作ホラーになったかもしれませんよ。★1/2